2003年4月15日2限
堀信一 大腸肛門外科助手
シラバスでは渡邊助教授担当でしたが,変更になりました。また「直腸・肛門」もあわせて講義がおこなわれました。配られたプリントは、渡邊先生の名前で「結腸癌」「直腸、肛門」のA3版2枚。
この回の プール問題はこちら です。
もはや試験対策になっていないと思われます。[2003-08-30]
外科(I)の「腫瘍」は選択式です。過去問をみるかぎり、プール問題は無視されています。
大腸癌については2問程度出題されるようです。
大腸がんに対する記述のうち正しいものはどれか?(2002本試)
- (1) 早期癌とは,癌細胞が粘膜内に留まっているがんのことを言う。
- (2) リンパ節転移のある癌のことを進行がんという。
- (3) 限局潰瘍型を挺するものが最も多く,I型に分類される。
- (4) 瀰漫性浸潤性の発育形式を取るものは,IV型に分類され予後が悪い。
- (5) 癌細胞がしょう膜面まで浸潤し,肝臓,所属リンパ節に転移を認めるものはDukes Dに分類される。
- a. (1) (2) b. (1) (5) c. (2) (3) d. (3) (4) e. (4) (5)
答えは 過去問 参照。この程度はもう大丈夫だというひとは、このシケプリは無視しましょう。
さまざまな分類があります。以下は授業で説明があったもの。
癌細胞の浸潤が粘膜内にとどまっているもの(m癌)は,内視鏡切除で治療可能です。癌が粘膜下層に及んでいるもの(sm癌)は,手術で周囲の組織もいっしょに切除するのが普通です。これら粘膜下層までの癌を早期癌といい,完治がみこめます。
一方,癌が固有筋層を越えると進行癌とよばれ,転移の可能性が数十パーセントあります。
古典的な分類ですが,臨床で広く用いられているのがこれです。
プリント右ページ下のグラフをみると,Dukes分類によって明らかに予後に違いが出ていることがわかります。
プリントの図のとおりですが,これは進行癌についての分類であることに注意してください。「大腸癌の進行癌では2型が多い」ことを覚えておきましょう。
大腸癌の70〜80パーセントは高分化腺癌です(たぶんこれだけで大丈夫でしょう)。
確定診断につかえるのは注腸X線検査(いわゆるバリウム検査)や大腸内視鏡検査です。内視鏡のほうが精度が高く,ポリープ切除を行える利点もあります。ただ医師の技術がもとめられます。
便潜血検査はかんたんにでき,進行癌ならば80パーセント以上みつけられます。しかし早期発見には役立たず,痔でも陽性になる場合があります。
他に,超音波内視鏡・CT・MRIも紹介されていました。ただ現状の臨床では,内視鏡がいちばん確実なようです。
大腸癌の根治療法は外科手術だけです。結腸癌では,癌が占拠する腸管の切除と所属リンパ節の郭清が基本になります。(理由は知りませんが,リンパ節の場合は切除や除去でなく「郭清」という難しい日本語がつかわれるのですね。「廓清」とも書きます。)
プリントの図をながめて,だいたいの腸管の切り方をつかんでおきましょう。『STEP外科2』にはとてもくわしい説明がでていますが,授業では「見ておいてください」ていどの説明しかありませんでした。
また開腹手術と腹腔鏡手術があります。腹腔鏡手術とは,おなかにちいさな穴を開けて内視鏡と器具を挿入し,モニターを見ながらおこなうものです。当然,術後の痛みは減ります。最近は進行癌にたいしても腹腔鏡手術がされるようになってきています。
プリント「5。早期癌と進行癌」はとくに説明されませんでした。「Haggittらの分類」など,私はまだ調べられていません。
家族性大腸腺腫症。大腸に数百〜数千個のポリープを生じる常染色体優性の遺伝性疾患。放置すればほぼ100パーセント発癌。
FAPは有名なadenoma-carcinoma sequenceでも知られる癌で,M1のときの病理学総論にも登場しました。APC遺伝子が変異すると正常細胞からポリープができ,ついでK-ras遺伝子が変異すると高異型度のポリープとなり,さらにp53遺伝子に変異がおきると癌になる――というものですが,この説明はうそっぽいので教科書を読んでください。
遺伝性非ポリポーシス性大腸癌。DNA複製のさいのミスマッチ修復に関与する遺伝子(hMsh-2,hMlh-1など)に変異がおこると,DNA複製のとき生じたエラーが修復されないことになります。その結果,遺伝子変異が蓄積されて発癌にいたると考えられています。
なおミスマッチ修復の異常によって生じたゲノムの不安定性は,HNPCC腫瘍のDNAのマイクロサテライト領域(単純な反復配列)に検出されます。そこでこの不安定性をmicrosatellite instabilityとよびます。(『NEW外科学』132頁)
プリントに明記されていませんが,大腸癌がいちばん転移しやすい場所は肝臓です。
大腸癌の肝転移にたいしては積極的に手術で切除します。そのほうが余命が延びるのです。