2005 M4のぺーじ

アレルギーリウマチ内科 卒業試験 2003年度

全身性エリテマトーデス

問題1. 5年前ループス腎炎で発症したSLE患者で、高用量のステロイド薬の治療を受け、徐々に減量し、プレドニン10mgにて経過観察をしていた。1週間前軽い感冒様症状の後、39℃に及ぶ高熱、頭痛、吐き気に続いてけいれん発作を起こし緊急入院した。考え得る病態を鑑別し、必要な検査、治療法について述べよ。

全身性エリテマトーデス(SLE)はほとんどの患者で再燃と寛解をくりかえす。この患者の場合も、SLEの再燃は考慮しなければならない。ループス腎炎の場合、とくに血清補体価と抗DNA抗体を測定することによって腎炎の増悪を早期発見でき、ステロイドを増量することができる。

この患者の場合、頭痛や痙攣を認めることから、CNSループス(SLEにおける中枢神経症状)の病態になっているとも考えられる。髄液穿刺(通常の検査に加えて、IgG indexやIL-6なども測定)、脳波、頭部CT・MRI・PET/SPECTなどが必要な検査となる。また、CNSループスの鑑別としては、薬剤性の精神・神経症状や中枢神経系感染症、脳血管障害などが挙げられる。感染症については髄液検査が、脳血管障害については頭部CTやMRIが有用である。

また、患者はステロイド投与量を漸減してきたわけではあるが、ステロイドの中止や減量のさいに見られる症状を起こしているとも考えられる。すなわち、ステロイド多量投与により副腎皮質からのホルモン分泌が低下していたところにステロイドが減量されたため、体内の副腎皮質ホルモンを枯渇し、吐き気や頭痛などの症状を認めた(ステロイド離脱症候群)。

ほかにもSLEとは独立の病態として、発熱や痙攣がみられるので、感染、新生物、膠原病、薬物、脳腫瘍、代謝性なども考えられる。

(参考文献:「内科系統講義」テキスト。SLEの臨床症状や検査所見・治療などについて詳細にまとめられています)

■試験情報 山本教授に直接うかがった話によれば、「アレルギー・リウマチ内科の立場からは、ステロイド減量による症状を鑑別にあげてほしかった」。ただし、通常の発熱や痙攣などの鑑別を考えることも「臨床医として当然」なので、それができていれば合格点である。なお、苦し紛れにSLEの診断基準などを書いたときは、「書かないよりはまし」「もう1問の出来とのかねあい」であるとのこと。

アスペルギルスの肺病変

問題2. 生体と真菌アスペルギルスとの関係を考察し、その取りうる肺病変の種類と診断、治療法について述べよ。

真菌アスペルギルスは、通常の空気中に1 m3あたり数個浮遊していて我々は常時本菌に曝露されているが、感染することはめったにない。肺結核後遺症として肺内に空洞を持っており、そこに本菌が住みつき発症する「肺アスペルギローマ(定着型)」、免疫能が低下していて日和見感染として発症する「侵襲性アスペルギルス肺炎(組織侵入型)」、アスペルギルスが抗原となりI型、III型アレルギーにより発症する「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(アレルギー型)」などのように、生体に特殊な原因があるときに真菌アスペルギルス症は発症する。

1. 肺アスペルギローマ(定着型)
上記のように肺結核後遺症として肺内に空洞を持っていると、そこにアスペルギルスが定着し、増殖することによって起こる。長期間無症状だが、本菌が宿主の免疫機構にうち勝つと、周囲に浸潤し、喀血や呼吸困難を呈する。胸部Xpで、真菌球(fungus ball)とそれを取り囲む含気層が見られるのが特徴的(真菌球は白く、含気層は黒く写る)。確定診断は、喀痰Grocott染色でのアスペルギルスの同定、あるいは喀痰 or 血中でのアスペルギルス沈降抗体陽性を見ることによって行う。治療は外科的切除が first choice。手術が困難なときはアムホテリシンBを経気管支or経皮的に空洞内に注入する。
2. 侵襲性アスペルギルス肺炎(組織侵入型)
免疫能、特に好中球の機能が低下した易感染性宿主に生じる肺炎で、発熱、咳そう、呼吸困難を呈し死に至らしめる極めて予後不良な疾患。胸部Xpで、上肺門部を頂点とした楔状陰影が見られる(他にも、多発性の小粒状陰影や浸潤影なども見られる)。確定診断は、肺生検により病理組織学的にアスペルギルスの菌糸を証明することで行う(喀痰培養による検出率が低いため)。治療は、アムホテリシンBの点滴静中がfirst choice。経口で5-FUを併用することもある。
3. アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(アレルギー型)
本症はアスペルギルスを反復吸入していると、本菌に対する特異的IgE抗体が産生され、I型アレルギーの機序で気管支喘息などの症状を起こすとともに、抗体と本菌の結合した免疫複合体が好酸球を誘導し・型アレルギーの機序により気管支壁を破壊し気管支拡張症などの症状も引き起こす病態。
好酸球性肺炎なので、胸部Xpで移動する浸潤陰影が見られ、また気管支拡張所見や無気肺の所見も見られる(痰が気道を閉塞するため無気肺は起こる)。確定診断は、喀痰Grocott染色でのアスペルギルスの同定、あるいは血中でのアスペルギルス沈降抗体陽性を見ることによって行う。治療は副腎皮質ステロイド薬がfirst choice。原則として経口投与する。

※解答用紙は、1問あたりB5判程度のスペースだったそうです。


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