病理学総論講義 2003/1/28(火)1限目 ガン抑制遺伝子(2) 分子病理学 宮園 浩平 教授 担当:後藤 多嘉緒
例によって、プリントは手に入れてください。
前回の復習もかねて。
癌 | 染色体 | 癌抑制遺伝子 | 遺伝子の機能 |
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網膜芽細胞種 | 13q14 | Rb | 細胞周期制御 |
FAP | 5q21 | APC | Wnt signalを伝える(アポトーシスへ) |
これらの癌は遺伝性であった。では膵臓癌ではどうか?
癌 | 染色体 | 癌抑制遺伝子 |
---|---|---|
膵臓癌 | 18q21(高い確率でここに原因) | DPC4(Deleted in Pancreas Carcinoma, locus 4の略) |
これは遺伝性ではない。
遺伝学のほうから、増殖抑制因子TGF-β(transforming growth factor)の研究をしていた。それによりさまざまなsignal分子が見つかってきた。これをsmadとよぶ。癌の研究と増殖抑制因子の双方の研究からDPC4はsmadの一種(smad4、実は後で述べるco-smad)であることがわかったのである。
TGF-βは上皮細胞、リンパ球、血球細胞の、非常につよい増殖抑制因子である。一般のレセプターはtyrosine kinaseであるが、TGF-βはserine/threonineのkinaseである。II型とI型の2種のレセプターが存在し、II型にTGF-βがつくとII型がI型レセプターと結合(4量体に)・活性化して、それによりsmadの活性化(シグナル伝達)が起こる(次で詳しく説明)
SmadにはR-smadとco-smadの2種が存在する。両方とも重要で、どちらかがかけるとシグナル伝達がうまくいかなくなる。
リガンドがII型に結合するとI型とヘテロ4量体をつくり、I型の活性化が起こる。するとR-smad(Rはreceptorの意味)がリン酸化され、するとco-smadと結合して、核内へ移行して他の転写因子と結合して標的遺伝子を発現させることになる。
そこで発現する遺伝子としてはp21、p15といったCDK inhibitorがあり、またmycのような癌遺伝子を下げることにより増殖抑制因子として働くことになる。
増殖抑制因子は、ブレーキなので、車で言うとTGF-βの異常はブレーキが壊れた状態で動いていることにあたる。Growth factorはアクセルにあたり、Growth inhibitorがブレーキにあたる。
TGF-βのシグナル異常に関しては、膵臓癌の50%でsmad4に異常がある。TGF-βのシグナル伝達異常全体としては、膵臓癌でほぼ100%、大腸癌で80%と言われている。
全大腸癌のうちFAPは約1%といわれているが、HNPCCは2〜4%をしめるといわれる。古い教科書ではLynchと呼ばれていた。
特徴: 10%くらいの患者さんにしかポリープできない 通常大腸癌は、下行結腸や直腸のほうが多いが、HNPCCは上行結腸に出来やすい 予後はよい 卵巣癌や子宮内膜癌を併発しやすい
通常ではDNAの複製においてミスマッチはよく起こり、その都度hMSH2(これは覚えること)等によって修復されている。
hMSH2の異常が多い(これは覚えるべし)
Missは単純な繰り返しに多い。CACACA・・・とかAAAAA・・・とか。TGF-βII型レセプターで、なぜかヒトにおいてのみAAAAAAAAAAというAが10個並ぶ配列があり、ミスマッチrepairに異常が起こると、TGF-βが作られなくなり、ブレーキが利かなくなる(このレセプターは1種類しかなく、この作製を失敗するとすぐに問題が生じる)。
この遺伝子の異常を持つヒトの9割くらいのヒトがHNPCCを発症し、1割くらいのヒトはならないままらしい。
Vogelstemという人の提唱した腺種―癌連鎖(Adenoma-carcinoma sequence)という考え方。多段階発癌説と呼ばれるもの。増殖抑制にかかわる遺伝子などが段階的に変異していく。例として次のようなものが上げられている。正常大腸に異常(多くはAPCの異常)がおこり、危険性のある粘膜になり、rasや18q21のDPC4 (DCCとかいてあるけれど、これは今ではあまり大事とはされてないらしい)などの多数の遺伝子の異常が積み重なって癌となる。異常の起こる遺伝子の順番は特に重要ではなく、積み重なりが大事と考えられる。
ひとつだけの癌遺伝子の異常では悪性度は高くないけれども、二つの異常で悪性度が上がるという例。
これらはホルモンの作用が重要であり、進行がともに遅いという特徴がある。
[前立腺癌PSA(Prostate specific antigen)] 特徴: 血液をとって腫瘍マーカーとなるデータをみてそれが急に上がったら目安となる。 80歳くらいでは50%のひとが多かれ少なかれ持っている。 (多くの人は症状を出さずに天寿をまっとうする) 黒人・白人に多い。日本人に少ない(食事の影響?) 骨転移が多い(骨形成性:転移したところに骨が出来る) 男性ホルモン依存性(Dihydro Testosterone (8)をみよ)
Testosteroneが5α-reductase type2により、DHT(Dihydro Testosterone)にかわり、これが悪さをする
治療:手術・放射線・ホルモン(精巣をとり抗男性ホルモン剤をするのが最強の治療法)
[乳癌] やはり進行が遅い。多くの癌は5年生存率をみるが、乳癌は5年たっても転移がでることがあり、 10年生存率を見るべきだという人もいる。 特徴: 女性ホルモン(エストロゲン)依存性 腋下リンパ節、肺、脳、骨(骨融解性:骨を溶かす)とかに転移する 治療: 抗エストロゲン剤投与や卵巣摘出 HER2のモノクローナル抗体投与によりうまくいくこともある
1) 腫瘍抗原:どんな抗原が認識されるだろう?
2) 防御システム
3) 癌と免疫は関係するか?→確かに先天性免疫不全やAIDSの患者さんは癌が出来やすい
なかなかがん細胞にだけしかない抗原はない。しかし、いくつかある。軽く知っておけばいいそうです。
A メラノーマの40%で発現するMAGE-1 B メラノーマで発現するTyrosinase C rasの異常 D HER2がある閾値異常に多いと認識される
通常の細胞にはMHC Iが発現するが、ときどきMHC Iが出ないものがあり、これはIL-2によって活性化したNK細胞によって殺される。またIFN-γによって活性化したマクロファージよっても攻撃をうける(のだと思うけどマクロファージのほうは聞き逃しました。すみません)
マイクロアレイの技術により、各細胞での発現しているmRNAの量が、すべての遺伝子について計測できるようになった。これにより、癌の種類が調べることが出来るようになった(ある薬が効きやすいときに、ある遺伝子発現パターンがある、など。これをprofileの違いという)いずれは、各個人に応じたテーラーメード医療に応用されよう。